AIが答えを出す時代に、新卒社員に求めるべきたった一つの能力
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「優秀な新卒」の定義が、静かに壊れ始めている
採用の季節になるたびに、ぼんやりと考えることがある。「優秀な新卒」って、いったい何なんだろう、と。
少し前まで、その答えはわりとシンプルだった気がする。
- 情報収集ができる
- 論理的に整理できる
- 複数の選択肢を提示してフィードバックに対して粘り強く提案し続けられる
そういう人が「できる新卒」として評価されてきたように思う。
僕はエンジニアだったので当然、「仕様書通りにプログラムがかける」さえできていればそこそこ評価はされていた。
でも、それってAIがとても得意な仕事になってきた。『苦しかったときの話をしようか』の中でも、「AIが奪っていくのは下ごしらえの仕事だ」という表現があって、データ集積や動向分析、選択肢の列挙といった作業はすでにAIの得意領域になりつつあるという話が出てくる。料理でいえば、ジャガイモの皮をむいたり皿を洗うような仕事——大切だけれど、AIの方が速くて正確だという。
そうなると、「何ができるか」よりも「何を決めるか」が問われる時代になってくる、そんな感覚がある。
AIが苦手なこと:「決める」と「自分ごとにする」
AIが提示してくれた選択肢を、実際の現場に落とし込んで決断するのは、やっぱり人間の仕事なんだと思う。『苦しかったときの話をしようか』の言葉を借りれば、「AIには過去の延長線上にない未来を創造することはできない」し、「仮説を立てることが苦手」でもある。情報は集められるけれど、そこから「自分たちはどうするか」を判断するのは、最終的には人間に委ねられることになる。
もう一つ、AIにはなかなか代替できないことがある。それが「自分ごとにする」という姿勢だ。スタートアップの文脈でよく出てくる話で、役割の境界線を超えてカスタマーに寄り添う力——「これは自分の仕事じゃない」と引いてしまうのではなく、事業全体を自分のこととして捉えて動ける人が強い組織をつくる、という考え方がある。
『問いの設定力』という本に、こんなことが書かれていた。変化の速い環境では、現場に近い人間が状況を判断して周囲を動かすことが求められる。そして、部下自身に実行責任が伴う場合には、極力判断を委ねる方が賢明だ、と。人は「自分で決めたこと」には責任感が生まれ、モチベーションも上がる。裏を返せば、「決める経験」を早期に持てるかどうかが、その人の成長に大きく影響するということになる。
社会人2年目に、方針を形に落とし込み続けた経験を持つ人が、その後どんどん頼りになっていく——そういう場面を何度か見てきた気がする。小さくてもいいから、自分が決めて、自分が責任を持つ経験の積み重ねが、「決める力」を育てていくんだと思う。
「問いを立てる力」こそが、今の新卒に求めたいもの

では結局、AI時代の新卒に一番求めたいものって何なんだろう。それをずっと考えていて、たどり着いた言葉が「問いを立てる力」だった。
AIは、問われたことに答えてくれる。精度も高いし、スピードも速い。でも、「そもそも何を問うか」は人間が決めないといけない。問いの設定を誰かに委ねてしまったら、出てくる答えも誰かのものになってしまう。
『問いの設定力』の中には、こんな言葉がある。
自分は本当は何をしたいのか? なぜ、この領域に興味があるのか? いろいろな問いを自分に投げかけて、丁寧にそれに答えていった。そのやりとりをノートに書き出して改めて読み返した時に、私の中で結論は出ていました。すでに私の中に答えがあったのでしょう。
問いを立てることは、外の世界ではなく、自分の内側に向かうことでもある。そしてその問いが鋭ければ鋭いほど、出てくる答えも鋭くなる。「問いの質が人生の質を決める」という言葉が同書に出てくるけれど、仕事においても同じことが言えるんじゃないかと思う。
プロダクト開発の文脈でもそれは同じで、『プロダクトマネジメントのすべて』や『企業の科学』的な観点からいえば、「コア機能は何か」「本当に解くべき課題は何か」という問いを立てられるかどうかが、プロダクトの質を決める。問いを立てられない人がどれだけ手を動かしても、解くべきでない問題を一生懸命解いてしまうことになりかねない。
『INSPIRED』という本には、優秀な製品開発リーダーの話が出てくる。強いビジョンを持ち、チームに活力を与え、浮き沈みを超えて組織を支えられる人——そういう人が組織を動かすとある。共通しているのは、「何をつくるか」より「なぜつくるか」「何が本当の課題か」を問い続けていること、そんな気がする。
そしてこの「問いを立てる力」は、知識の量とはあまり関係がなさそうだ。むしろ、好奇心、当事者意識、そして「自分で決める」習慣——そういうものの積み重ねから育つものだと思う。
では企業は、何をどう育てればいいのか
「問いを立てられる人を採用したい」と思っても、そもそも入社時点でその力が十分に育っている人はそう多くないだろう。だとすれば、企業側がその環境をつくるしかない。
まず必要なのは、「決める経験」を早期に与えることだと思う。小さくていい。自分で問いを立てて、自分で判断して、その結果を自分ごととして受け取る——そういう機会を意図的につくることが、「問う力」を育てる土台になる。『問いの設定力』にあったように、人は自分で決めたことに責任感とモチベーションを持つ。逆に言えば、全部お膳立てされた中で動いてきた人に、突然「問いを立てろ」と言っても難しい。
もう一つは、役割に境界線を設けすぎないこと。「それは私の仕事じゃない」という感覚が強い組織では、カスタマーや事業への当事者意識が育ちにくい。全員が事業に向き合う環境が、「自分ごとで考える」習慣をつくっていくんだと思う。
そしてビジョンの共有。『INSPIRED』には、明確なビジョンのある組織には有能な人材が引き寄せられるという話が出てくる。新卒が「自分の仕事の意味」を問い続けられるような文脈を与えられているかどうかが、その人の成長スピードを大きく左右するんだと思う。意味を問えない環境では、問いを立てる習慣も育ちにくい。
まとめ:AI時代の新卒に求めるのは「答える力」より「問う覚悟」

AIが答えを出し続ける時代に、人間の価値はどこに行くんだろう——そう考えていくと、やっぱり「問いの質」にシフトしていくんだと思う。
新卒に求めるべきは、スキルセットよりも「自分ごとで考え、決め、周囲を動かす姿勢」なのかもしれない。それはつまり、「問う覚悟」を持っているかどうか、ということでもある。
答えをもらうことに慣れてしまうと、問いを立てることが怖くなる。正解のない問いに向き合い続けることは、それなりにしんどい作業だから。でも、AIがどれだけ進化しても、その「しんどさ」を引き受けられる人間が、結局は組織の中心にいることになる——そんな気がしている。
そしてそういう人を育てられる組織こそが、AI時代に強い組織になっていくんだと思う。採用の答えはそこにあるのかもしれない、とぼんやり考えている。
