統計の勉強はほとんど役に立たなかった——本当に必要だったのは「翻訳する力」

前回の記事では、大学も出ていない、統計の知識もないまま「データアナリスト」になった経緯を書きました。実は、入社の前後で統計の勉強はしていたんです。ただ、その勉強はほとんど役に立ちませんでした。今回は、その話をしようと思います。
統計を勉強したのに、ほとんど役に立たなかった
「漫画でわかる統計」のような入門書から、統計検定の参考書まで読み込んで臨みました。「アナリスト」と聞くと、回帰分析のような手法を使って語る人たちを想像していましたし、実際に前任者もそういう畑を歩いてきた人でした。だから自分もそちら側の勉強をしておかないと、という気持ちがありました。今思えば、「アナリスト」という肩書きから逆算して、それっぽい知識を揃えようとしていただけだったのかもしれません。
ただ、入社してから分かったのは、チーム全体はそういうものをまったく求めていなかったということです。それどころか、「アナリストという人たちは、よくわからないことを偉そうに話す連中」というイメージすら持たれていました。面接のときに面接官が言っていた「データ分析に課題がある」という言葉の本当の意味が、ここでようやく分かった気がしました。アナリストチームと、それ以外のチームの間に、ちょっとした壁がある状態。それをなんとかしてほしい、というのが会社から求められていたことだったんだと思います。統計検定の参考書には、その壁の壊し方はひとつも書かれていませんでした。
本当に必要だったのは、統計ではなく"翻訳"だった
イベントや月の成果をチーム全体に発表する場があったのですが、そこでなるべく統計の専門用語を使わないようにしてみました。気づいたのは、シンプルに「平均」くらいのレベルの話で十分だったということです。
ただし、ただの平均をそのまま出すのではありません。たとえばゲーム内の戦力別でセグメントを切って、そのセグメントごとの平均を見る。課金額別でセグメントを切ってみる。難しい手法を使わなくても、切り口さえ工夫すれば、十分に意味のある話ができるんだな、というのがこのときの発見でした。前任者も似たような分析自体はしていたのですが、自分がやったのは、チーム全体のレベルに合わせて説明することでした。というより、自分自身のレベルがそこまで高くなかったので、そうせざるを得なかった、というのが正直なところです。
発表のあとに、ちょっとした小話を挟むようにもなりました。「いまこんなライトノベルを読んでいて、すごく面白かった」というような、仕事に関係のない話です。ちょうど『恋する時間があるならガチャを回せ』というライトノベルを読んでいたときで、これも意外と受けが良かったです。壁をなくしていくには、こういう小さな雑談も案外馬鹿にできないんだな、と思いました。
壁が崩れていった、小さな変化
こういうことを続けていくうちに、プランナー以外の人からも「このデータを出してほしい」と個別に相談をもらうことが増えていきました。プランナーが発表していた内容を、代わりに自分が発表するようになる場面も出てきました。
もともと人前で話すのが得意なタイプではなかったのですが、社内の空気が良かったので、やりやすかったのは確かです。これは自分の工夫というより、単純に環境に恵まれていた部分も大きかったと思っています。壁を壊す工夫がうまくいったとしても、それを受け止めてくれる空気がなければ、たぶん同じようにはいかなかったんじゃないかなと思います。
この経験も、今の伝え方につながっている
専門的に見えることを、あえて難しくせずに伝える。相手のレベルに合わせて言葉を選ぶ。関係のない雑談も含めて、場の空気をつくる。この感覚は、今もそのまま残っている気がします。
統計の勉強そのものが無駄だったとは思っていません。ただ、少なくとも当時の自分に一番必要だったのは、知識を増やすことよりも、持っている知識をどう届けるかを考えることのほうだったんだろうな、と今は思います。壁の壊し方は、参考書には書いていませんでしたから。



