毎月10万円がクラウドに垂れ流しに——発覚から止めるまでの実録
ある日、ご一緒していた会社にこんな連絡が届きました。「クレジットカードの期限が切れていて、引き落としができません」——。調べてみると、それはAWS(アマゾンのクラウドサービス)の利用料で、毎月数十万円が支払われ続けていました。
問題は金額そのものではありません。その費用が「誰が・何のために使っているものなのか」、社内の誰にも分からなかったことです。この記事は、そこから始まった「お掃除」の実録です。
発覚のきっかけは、カードの期限切れだった
とりあえずAWSのアカウントをもらって、中を覗いてみました。どの部署の、どのチームのものなのか、手がかりを探してみたのですが——結局、分かりませんでした。
ただ、EC2(クラウド上の仮想サーバー)などのリソースは動いたままになっています。そこで「こういうものが乗っていますけど、使っていますか?」と各部署にヒアリングして回ったところ、答えは「使っていない」。
つまり、誰も使っていないサーバーのために、毎月数十万円が支払われ続けていたわけです。これはお金を垂れ流しているやつだ、と思い、お掃除を始めることにしました。
なぜ「誰も知らないお金」が生まれるのか
経緯をたどると、こういうことのようでした。昔にサーバーの移行があり、それを機に古い環境は使われなくなった。「移行して少し経ったら消そう」という話だったはずが、当時の担当者はすでに退職していて、そのまま放置されていた——。
ここで大事なのは、放置の原因は技術の問題ではなく、心理の問題だということです。使っていない環境を消す作業(除却といいます)には、それなりのリスクがあります。消した瞬間に何かが壊れるかもしれない。だから、正直やりたくない。だから、後回しになる。その繰り返しが「誰も知らない月数十万円」を作っていたのかなと思います。
これはこの会社が特別ずさんだった、という話ではありません。担当者の退職と引き継ぎの隙間で、同じことはどの会社でも起こりうると思います。
お掃除の段取り
進め方は、こんな流れでした。
- 全員に見える形で宣言する——まずSlackで広めに「AWS費用が月数十万円かかっていることが分かったので、これからお掃除プロジェクトを進めます」と周知しました。こっそり進めないことが、後々の信頼につながります
- 各部署にヒアリング——「これ、使っていますか?知ってますか?」をひとつずつ確認
- データのバックアップ——何かあっても戻せる状態を先に作る
- いきなり消さず、まず停止——サーバーを止めて、影響がないことを確認してから削除する
止めたら、本番が止まりかけた
実は、EC2を停止したときに、ちょっとした本番影響が出たことがありました。すぐに元に戻したので大事には至りませんでしたが、これには驚きました。本番で使われているリソースなのに、誰もその存在を知らなかったのです。
消すこと自体は、ボタンひとつでできる簡単な作業です。でも、こういうことが実際に起きるからこそ、バックアップを取り、停止して様子を見て、それから消す——という段取りを踏むことが大事なのだと、改めて思いました。
「偉い人」が簡単にうんと言えない理由
最終的に消すときには、決裁者に「これ、消しますからね」と確認を取る必要があります。ただ、決裁者の立場からすると、もし消して問題が起きたら困るので、簡単には「うん」と言えないんですよね。
だから、こう伝える必要がありました。「ちゃんとバックアップを取ってあります。何かあっても、私が元に戻しますから大丈夫です。安心してください」——当たり前のことですが、この一言があるかないかで、意思決定のスピードは大きく変わります。技術の作業と同じくらい、決める人の不安を取り除くことも仕事のうちなのだと思います。
結果:月10万円以上の削減
お掃除の結果、月10万円以上のコストを削減できました。期間は3ヶ月ほど。本来の業務をやりながらの片手間の作業だったのと、先ほどの本番影響への対応もあったので、それなりに時間はかかりました。
一度きりの削減ではなく、毎月10万円です。年間にすれば120万円以上が、誰にも気づかれないまま流れ続けるはずだったお金でした。
あなたの会社でも、たぶん起きている
この話を読んで「うちは大丈夫かな」と思った方に、今すぐできる確認方法をひとつ。
クレジットカードの明細を、ひとつひとつ見てください。そして「これはどの部署の、何のための費用なのか」を、スプレッドシートでも何でもいいので記載してもらう。これを徹底するだけです。明日、あるいは今すぐにでもやってみて、その後も年に一度は棚卸しすることをおすすめします。
経験上、絶対になんかあるので。
正直、外部ベンダーには頼みにくい仕事です
この手のお掃除を外部のベンダーさんに頼めるかというと、よほど信頼できる相手ならできるかもしれませんが、現実問題としては難しかったと思います。AWSのアカウントごと渡すのはリスクがありますし、リスクの割に地味なこの仕事、ベンダーさん側も正直やりたくないだろうなと思います。
私は業務委託という外部の立場でしたが、それなりに社内のことを理解していたからこそできた仕事でした。任せてもらえたのは、「消していい理由」をひとつずつ丁寧に説明できたことと、そこに至るまでに積み重ねてきた信頼があったからかなと思っています。
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